Project Story
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顔面神経麻痺の新たな評価法の確立と、
医療診断・治療業務におけるAI活用に向けた挑戦

NTTデータは、学校法人杏林学園(以下:杏林大学)と顔面神経麻痺患者の定量的な臨床経過評価を目的とする共同研究を開始した。共同研究では、NTTデータがAI表情認識技術を活用した、顔面神経麻痺の臨床経過を評価するアプリケーションを開発し、杏林大学医学部付属病院の患者データを利用して、検証評価を行う。顔面神経麻痺の評価(診断)は、これまで医師の主観に基づいて行われ、検者によって評価が一定しない課題を抱えていた。共同研究では、AI表情認識技術を利用した定量評価を診断過程に用いることにより、顔面神経麻痺の新たな評価法を確立し、実際の診断・治療業務におけるAI活用を広めることを目指していく。

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※掲載内容は取材当時のものです

MissionAI表情認識技術 × 医用画像で顔面神経麻痺を定量評価

顔面神経麻痺は、顔の表情筋を動かす顔面神経が傷つき、顔面が動かなくなる症状を指す。多くの場合、顔の右半分または左半分のどちらか一方の口元が閉まりにくい、目が閉じにくい、頬がうごかないなどの症状が現れる。顔面神経麻痺は脳そのものに障害がおきる中枢性顔面神経麻痺や、外傷によって顔面神経に障害がおきる末梢性顔面神経麻痺など様々な原因によって引き起こされる。そのため診断には、形成外科、耳鼻咽喉科、あるいは神経内科といった多方面からの観点が必要となる。

臨床現場で利用されている顔面神経麻痺の評価(診断)は、これまで医師の主観的評価に基づいて行われてきた。そのため同じ症状でも医師による評価の個人差が避けられず、顔面神経麻痺を客観的に定量評価する手法が求められてきた。

従来、顔面神経麻痺の診断方法には、顔面各部位の動きを評価しその合計で麻痺程度を評価する40点法(柳原法)が主として用いられてきた。この評価法では特殊な機材が不要であるため、簡易に臨床現場に導入しやすい点において優れている。しかし40点法は、医師が顔面神経の各分枝を考慮した表情運動10項目を3段階で評価するため、診断のばらつきが避けられない。この問題を解決するため、電気生理学的検査による手法や、患者の顔動画像を撮影し画像処理を利用した手法など、現在、様々な客観的な評価手法が研究されているが、特殊な機材が必要であることや、患者の表情運動を撮影する間、顔を固定するため、患者の負担が大きく、また患者の自然な表情が出にくくなるといった課題があり、決定打にはなっていない。

そこで、プロジェクトチームは、患者の顔を固定することなく撮影し、AI表情認識技術によって顔の各部位の左右非対称性を算出する臨床経過評価アプリケーションの開発に着手。これは、AIが目や鼻などの各部位の特徴点(ランドマーク)を自動で検出。検出したランドマークを利用して、部位ごとに左右非対称性を算出することで、顔面神経麻痺を評価しようというものだ。このアプリケーションは、画像処理で顔の向きを自動補正することで、特殊な機材を使わずに撮影可能であるほか、一般的なRGBカメラでの撮影に対応しているため、臨床現場に導入しやすいなどの特長を備えている。

プロジェクトの第2ステップは、杏林大学の付属病院に蓄積されている顔面神経麻痺患者の診察動画を使用した臨床経過評価アプリケーションの実証試験だ。アプリケーションで算出された麻痺スコアによる定量評価と、付属病院の顔面神経麻痺専門の医師らによる評価を比較し、AIによる評価精度を高めていく必要がある。また、医療現場での利用を念頭にインターフェースの向上も進めなくてはならない。

今後、プロジェクトは、共同研究の成果を形成外科の領域から展開し、耳鼻咽喉科、神経内科の幅広い領域において顔面神経麻痺の実臨床に直結した新しい評価法の確立を目指していく。また、顔面神経麻痺以外の疾病にも、AI表情認識技術を応用した、医師の判断の定量化をサポートするアプリケーションの評価と検証を実施する予定だ。

これまで臨床現場では診断の際に個々の医師のスキルに頼ってきたが、AI技術を応用することで、より簡便でばらつきのないものになる。このプロジェクトの取り組みをはじめとする医用画像AIの発展により、見落としのリスク削減に加えて診断業務の効率化にもつながっていく。AIが医療にイノベーションを起こす時代は、もうすぐそこにまで迫っている。

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