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川嶌の視点から見る
プロジェクト
川嶌 健一
ソーシャルイノベーション事業部デジタルソリューション統括部
参画プロジェクトを読む
Project Story 01デジタルアーカイブQ1プロジェクトにおける
あなたの役割とは?
私がデジタルアーカイブ分野に関わったのは、2010年から国立国会図書館の基幹システムや、デジタルアーカイブ開発プロジェクトに参画したのがきっかけです。その後に生まれたのがAMLADであり、私はAMLADのコンセプト検討から携わりました。AMLADはそれまでNTT DATAが手がけた大規模デジタルアーカイブシステムのノウハウが凝縮されており、デジタル化された貴重資料の長期保存に最適なデジタルアセットマネジメントシステムや、デジタル資産を有効活用する多様な連携インタフェースなど、様々な独自機能を有しています。その高い機能性にバチカン図書館が注目したことから、バチカン図書館アーカイブプロジェクトがスタートしました。
バチカンプロジェクトでは、私はプロジェクトマネージャーとしてプロジェクト管理を行うほか、実際にバチカンに渡航し、バチカン図書館と仕様の調整などを担当しました。
また、2018年には日本政府のASEAN支援国際協力プロジェクトのひとつでもある、ASEAN文化遺産デジタルアーカイブプロジェクトのプロジェクトマネージャーも務めています。
Q2プロジェクトのなかで感じた
“BORDER”とは?
バチカン図書館、ASEAN文化遺産、どちらのアーカイブプロジェクトも異なる文化圏でのプロジェクトであり、日本国内とは違う様々な障壁がありました。
バチカン図書館プロジェクトでは、システム開発以前に仕様検討の段階で考え方の相違が問題になりました。考え方というか懸案のポイントですね。バチカン図書館に収蔵されているもののなかには1,000年以上前に書かれた手稿本(マニュスクリプト)が多く含まれています。その貴重な手稿本は「紙」というアナログメディアに1,000年間保存されてきた実績があります。これに対して、デジタルの歴史は始まったばかり。そのデジタルファイルはいったいいつまで残るのか、というのがバチカン図書館の最大の懸念点の一つだったのです。
一般に、デジタル化すればそのデータは安全に保存でき、検索も容易で、コピーして分散保存すれば災害などによる消失から守られると、良いことずくめに考えがちです。しかし、いくらデータが保存されていても、それを再生できる手段が確保されてなければ意味はありません。たとえば再生メディアが進化して、かつてデジタルテープやMDに保存した音楽を聴けないのと同じです。インターネットの父と呼ばれるヴィントン・サーフが指摘するように、デジタル情報は時代の変化とともに腐るのです。果たしてデジタルファイルは次の1,000年間、残っていられるのか。そうした保存・再生に関する懸案をどう解決するかが大きな問題でした。

また、ASEAN文化財プロジェクトでは、現地の人々との信頼関係構築に苦労しました。このプロジェクトは、ASEANと日本政府が拠出した日・ASEAN統合基金の連携によって進められたものですが、政府レベルで合意されている意義や目的が、最初は現場であるそれぞれの国の博物館にまでは浸透していなかったのです。残念ながらASEAN諸国におけるNTT DATAの知名度もそこまで高くなく、現地の方々にすれば、いきなり日本の民間企業がやってきて文化財を撮影しようとしている。不審がられて当然です。
Q3“BORDER”を超えたと
感じた瞬間は?
デジタルファイルの保存・再生については、バチカン図書館側の懸案を解決するためにOAIS(Reference Model for an Open Archival Information System)参照モデルと呼ばれる標準を採用しました。OAIS参照モデルは日本ではまだ浸透していませんが、欧米ではデジタルデータの長期保存に対応するための国際標準規格として、デジタルアーカイブシステムの基本的要件として準拠が求められることが多いです。その特長のひとつが、保存対象となるデジタルデータについて、「どのように再生できるかを示す表現情報」や「他の情報との関係を示すコンテクスト情報」、「意図しない変更がされていないことを示す不変性情報」など、長期保存のための各種情報を付与することです。これにより、たとえデジタルデータを再生する手段が変化しても、保存したデータの特性を知り、再生することが可能となります。そのボーダーを乗り越えたことでプロジェクトは一気に加速しました。
ASEAN文化財プロジェクトでは、文化財を保有する最前線の人々に、文化財を後世に残す意義や、ASEAN諸国の一体感を生み出すプロジェクトに貢献したいという私たちの熱意を伝えることから始めました。最初はあまり進まなかった現地の方々とのコラボレーションも、公開のイメージや使用方法を詳しく説明するなかでデジタルアーカイブに興味を抱いてもらい、その意義を理解してくれるようになりました。
文化財をスキャンする機材は日本から運びこんだのですが、国によっては電力が安定せず、機材が動かないなどのトラブルも続出しました。しかし、それらのトラブルにもめげずに、スーツ姿で汗をかいて働く姿を見て、現地の人々も「これは本気だ」と感じてくれたようです。こちらの熱意が伝わってからは、一体感を持ったパートナーになってくれました。

Q4これからチャレンジしてみたいことは?
デジタルアーカイブのコンテンツを世界で共有できるようにしたい。そのためにはバチカン図書館のDigiVatLibでも採用しているIIIF(International Image Interoperability Framework)など、コンテンツやデータの流通手段をもっと世界に広めることが重要だと考えています。
世界のどこからでも、標準化された手段でデジタルアーカイブのコンテンツやデータにアクセスし、これを自由に利用できるようになれば、研究やビジネスの環境は一変します。それまで現地に行かなければ見ることができなかった文化遺産をどこにいても手軽に3Dで観察できますし、異なる博物館に保管されている文化財を並べて比較することも可能になります。たとえば同時代につくられたインドネシアの仏像と日本の仏像とを比較し、文化の伝播や影響度を考察するなど、これまでになかった利用方法も生まれるでしょう。その意味で、バチカン図書館やASEANの文化遺産にとどまることなく、世界中の文化遺産をデジタルアーカイブ化し、共有する仕組みをつくることは大きな意味があると考えています。
他のプロジェクトメンバーの視点
※掲載内容は取材当時のものです