Project Story
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「資金ニーズ予測AI」の開発と導入。
信用金庫の渉外業務が、劇的な効率化を実現する。

地域金融機関の経営強化策には、「収益拡大」「コスト削減」「社員の教育・育成やナレッジの共有」などが挙げられる。なかでも、収益拡大においては、融資に伴う金利収入はその中核を担っており、極めて重要な収入源である。
しかし、経済環境などの様々な要因から、近年では信用金庫が行う企業への融資が伸び悩む傾向にある。また、融資にあたって必要となる渉外業務(営業活動)についても、従来の業務の在り方を変え改革が求められていた。
こうした課題を克服するため、NTTデータが長年にわたり信頼関係を構築してきた信用金庫業態に対して、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を使ったソリューションを提案し、経営課題解決に向けスタートを切った。

Project Member

※掲載内容は取材当時のものです

MissionAI × 金融機関の膨大なデータを駆使して最適な渉外活動を創造

地域金融機関の経営において、融資による金利収入は極めて重要なファクターであるが、信用金庫協会関連のシンクタンクによる統計によると、2010年頃以降は、企業向けの合計貸出(融資)が昨年比マイナスで推移している。つまり、融資業務とその収益は、地域金融機関が望むほどのパフォーマンスが得られていない状況であった。

一方、融資の伸び悩みには他の要因も指摘されていた。

融資案件に伴う渉外(営業)活動において、融資先の選定や交渉時期については、経験によるものが大きく効率よく有望な融資先を見つけることができていない。そのような状況下に、信用金庫関係者、およびNTTデータの第三金融事業本部戦略ビジネス本部は、抜本的な改革を行う必要を感じていた。

NTTデータは、全国の信用金庫の9割以上が利用している「しんきん共同システム」という業務システムの開発や保守に長年携わってきており、信用金庫をクライアントとする、第三金融事業本部しんきん事業部は、しんきん共同システムに格納されている業務データの種類とその意味、ひいては信用金庫の業務に関するノウハウをナレッジとして受け継いできている組織であるため、当然、信用金庫からの信頼も厚い。

NTTデータは信用金庫の経営課題解決に向け、融資業務の省力化・高度化-AIを用いたシステム「資金ニーズ予測AI」の導入に乗り出したのだった。

「資金ニーズ予測AI」が実現する業務は広範に及ぶが、まず実現を目指したのは融資先として見込める優良企業の選定である。融資実行の可否を判断するためには、より精度の高いAIシステムが求められたが、実現することができれば融資による金利収入の拡大が見込めることに加え、AIと職員が共に「学び合う」ことで人材の教育や育成が強化され、経営基盤強化にもつながると考えられた。
そして、「資金ニーズ予測AI」を実現するためのPoC(Proof of Concept:新しい概念や理論、アイディアなどの実証を目的とした検証)に着手。具体的には選定されたデータをもとに、どのようにデータを活用し、どのように学習させるかを繰り返し検証し、資金ニーズを予測するAIモデルを開発した。
一定の精度が確認された後は、信用金庫の協力を得て、AIがはじきだした「(融資成功に関する)見込み度スコア」が高い顧客に対して実際に渉外活動を行い、融資した資金に対する収益性を検証するPoB(Proof of Business:顧客から提供サービスに価値があるかの検証)が行われた。
結果は、新規の融資契約件数において、AIを利用した店舗がそうでない店舗を数倍上回り、AIのモデル精度と業務価値が立証された。

PoBでの成功を受け、プロジェクトはコストや運用といった実務的な領域での検討へとフェーズを移す。
データの保管場所やシステムの構築を進めるにあたり、当初は社内のクラウドサービスを利用することが検討されていたが、コスト面で懸念点が残る結果となった。
そこで、選択肢として挙がったのがAWS(Amazon Web Service)。AWSであれば開発期間も短く、コスト面でも優位。また、AIモデル構築を自動化し劇的な生産性向上が見込めること、AI分析基盤をコードベースで自動構築・管理できること、開発後の保守を簡易化できることにより生産性向上と品質向上、コスト削減できることは魅力的だった。
お客様とNTTデータ双方のメリットになるため、信頼できる外部サービスを取り込もうという柔軟な判断であった。

しかし、お客様である信用金庫は、個人情報を取り扱う業務システムにおいてパブリッククラウドを利用することに強い懸念を示した。NTTデータとしても実績が限定的ななかで、社内でも賛否両論の意見があがった。さらには、AWSとしても信用金庫等の地域金融機関へのサービス提供の実績が限定的であった。
あらゆるリスクを想定し、セキュリティを万全にしたうえで、AWSを導入する。まず課題となったのは、安全基準であるFISCに準拠する必要だ。大変な苦労はあったものの、社内他事業本部やAWS側も新たな実績づくりのために、協力的に取り組んでくれた。さらに、AWS有識者として「APN Ambassadors」という肩書(日本では10数名しか存在しない。うち2名がNTTデータ社員)をもつ社員がプロジェクトをサポートしてくれたこともあり、提案は少しずつ受け入れられていった。
基盤がAWSに決まると、システムやソフトウェアの構築に入る。今回の開発は、金融機関の業務データをAIに投入し、予測結果を出すという機能にとどまらず、様々な地域金融機関が自社にあった資金ニーズ予測として、最適に利用できるよう、金融機関に合わせたAIソフトの実装が計画された。具体的には、AWSが提供しているSageMakerというAI/ML(Machine Learning:機械学習)モデルの開発サービスを駆使したものになる。つまり、他の信用金庫や他の地域金融機関への横展開も当初から計画に含まれていたのだ。
加えて、「A-gate」と呼ばれる、NTTデータが開発した、パブリッククラウド向けセキュリティプラットフォームの存在。そして、そのプラットフォームを利用した、社内の他プロジェクトの実績も、お客様に安心して使っていただけるAIシステムの構築に寄与した。

実際に、信用金庫の営業現場からは思いがけない反響も寄せられている。信金の職員が渉外活動にあたり、比較検討する観点をAIから学び、成果につなげることができているというのだ。

2021年には、実稼動の開始が見込まれている「資金ニーズ予測AI」。
主幹チームである戦略ビジネス本部で、プロジェクトをリードした山野清晴、信用金庫に長くかかわり、その業務知識で山野と並んでチームをリードした、しんきん事業部の仲谷公志、戦略ビジネス本部で主にAWSを含むシステム全体のアーキテクトと基盤開発を担った栗原崇、AIやweb上の開発に関わった石田浩晃に、それぞれの役割などについて聞いてみた。

Project Formation