Project Story
05
契約担当

小倉の視点から見る
プロジェクト

小倉 正彦 技術開発本部ヘルスケアAIセンタ

Q1プロジェクトにおける
あなたの役割とは?

私はもともとAIの医療活用に興味を持っており、学生時代は睡眠時無呼吸症候群をAIで検知する研究などを行っていました。NTTデータに入社して、最初はビジネス分野でソリューション開発に従事していましたが、4年目に技術開発本部に異動し、技術検証や仕組みづくりといった研究分野に携わっています。本プロジェクトが始動する以前からCTやMRI画像のAI診断に関するプロジェクトに参画しており、現在は杏林大学との共同研究プロジェクトと並行してふたつのプロジェクトを進めている状態です。

杏林大学共同研究プロジェクトにおいて、私は主に契約関連の手続きや各種調整を担当しています。AIという知的財産に関する取り決めや、共同研究で使用する患者さんの個人情報データの取り扱いなど、プロジェクトを進めるうえで必要な各種契約を締結することがミッションです。

共同研究では、その成果物の所有・利用権などを定めておくことが一般ですが、AIの場合、開発過程で発生する学習済みモデルやパラメータといった中間成果物の取り扱いが不明瞭で、契約のガイドラインが確立されていないという事情があります。また、実証試験では実際の患者さんの映像を使用するため、個人情報に関する厳密な取り決めが必要となります。そのため、医療関係者や大学側の契約担当者と調整を重ねて、共同研究を成立させるための倫理審査委員会や研究契約の対応を実施しています。

Q2プロジェクトのなかで感じた
“BORDER”とは?

大学や医療機関との共同研究では、倫理審査委員会の承認が必要となる場合が少なくありません。倫理審査委員会は、治験や医学的研究を行う際に、倫理的、科学的、医学的妥当性の観点から臨床研究等の実施や継続等について審査を行う機関で、被験者の人権や研究の公明性、信頼性の確保に努めています。

本プロジェクトは、撮影された顔面神経麻痺の患者さんの映像を使用して臨床経過評価アプリケーションの実証試験を行うため、その個人情報の取り扱いについて、細かな取り決めを行う必要がありました。当初はセキュリティの観点から、附属病院内にスペースを用意し、院内で検証を進める計画を立てていましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてフルオンラインで実施するよう、大幅な計画変更が行われました。

しかし、今度は個人情報データをオンラインでやりとりするという新たな問題が持ち上がります。病院内で実証実験を行う場合とは異なり、オンラインで実施するにあたっては非常にセキュアな開発環境が必要です。患者さんの個人情報データ漏洩は絶対に避けなければならないため、倫理審査委員会からは開発環境についても様々な要望が出され、それを早急にクリアする必要に迫られました。

Q3“BORDER”を超えたと
感じた瞬間は?

倫理審査委員会が求めるレベルに応じて、安全に医療情報を管理できる仕組みをつくる。その環境構築には伊藤の力なしには成し得ませんでした。その意味で、BORDERを超えたのは私一人の力ではありません。私に求められていたのは、いわば通訳です。たとえば患者さんの映像を大学以外の環境で使う場合、セキュリティの確保されたネットワークを使用して大学にアクセスします。では、なぜそのセキュリティが確保されているといえるのか、その技術的な仕組みを専門外である大学関係者、医療関係者に向けてわかりやすく説明することが私の役目でした。求められるセキュリティを準備して、承認していただくという予定外の作業が日程を圧迫し、プロジェクトスケジュールはかなりタイトになりました。もちろん最終的なゴールは動かせません。必要な契約の調整、締結に向けて大学、病院関係者との調整を急ぎました。

私が一番苦労したのは、スケジュールが切迫するなかでも、大学からは高い理想を求められたことです。実際に顔面神経麻痺の現場に携わる先生は、今回のプロジェクトに大きな夢と情熱を抱いており、様々なアイデアや要望を出されます。それが本当に必要なものなのか、現段階で取り組むべきことなのかも含め、現実的な方法を提示し、どうにか各種契約の大枠を固めることができました。

Q4これからチャレンジしてみたいことは?

いま、私が見据えているのはプロジェクトの出口です。AIによる顔面神経麻痺の定量評価が理論的、技術的に確立されても、それが広く利用され、ビジネスにつながるまでには長い道のりがあります。私は大学時代からAIを研究しており、技術者の言葉がわかります。一方、このプロジェクトを通して大学関係者、医療関係者とのコミュニケーションを磨いてきた自負もあります。私はその両者の意思疎通をはかる懸け橋となり、AIの医療分野への応用を加速させたいと願っています。

もちろんその前には大きな壁が立ちはだかっています。法律、倫理、社会意識など、超えなくてはならない“BORDER”は、これから先にこそ待ち構えています。しかし、必要がある以上、医療分野のAI活用は必ず実現します。もちろん法律の改正や社会の意識変革が必要ですが、コロナでオンライン診療が一部認められる流れになったように、いずれ必ず実現する。その来るべき日に向けて、よりいっそう技術を進化させ、準備しておくことが私たちの使命です。

他のプロジェクトメンバーの視点

※掲載内容は取材当時のものです